「一生懸命資料を作っても、上層部に時間をかけて見てもらえない」
「資料の中で注目ポイントをどう強調したら良いか分からない」
このような悩みを抱えている方は少なくありません。
私、三木雄信は25歳の時にソフトバンク孫社長の元で働き始め、ありとあらゆる資料の作成に携わってきました。最初はどれだけ時間をかけて作った資料でも「要点が分からない」と切り捨てられることが続きました。
しかし、様々な資料を分析する中で「どれほど忙しい相手にも瞬時にメッセージを伝えられる資料」には共通点があることを発見しました。私はそれらのテクニックを活用してソフトバンクで活躍したのち、現在コーチング英会話トライズ(TORAIZ)の経営を拡大しています。そして、資料作りのエッセンスを著書「世界のトップを10秒で納得させる資料の法則」にまとめました。
本記事ではその中から「分かりやすい資料を作るためのマインドセット」に焦点を当てて解説していきます。
目次
経営の要素を1万挙げるためには「構造化」が必須
私は1998年に孫社長のカバン持ちとして、孫社長が行く所にはどこにでもついていき、必要があれば様々な仕事を請け負いました。中でも重要な役回りが「資料作成」です。孫社長は入社間もない私のこう言い放ちました
「経営についての要素を1万挙げろ」
1万という数字もさるものながら、もっと驚いたのが与えられた期間です。私に許されたのはわずか3日間。単純計算で1日3333件、1日8時間勤務としても1時間に約140個も要素を見つけなければなりません。
とにかく頭に浮かんだものをすぐに書き留めていきましたが、入社間もない私は経営の知識が乏しかったため、すぐにネタ切れを起こしました。「このままじゃまずい」と冷や汗をかきながら、私は別の方法を模索し始めました。
3日間で1万ものキーワードを抽出するという作業は「経営辞典」を作ることと同じです。自分の頭の中にある要素を並べていくだけでは到底到達できっこありません。
そこで。私は「構造化」を取り入れることにしました。まず経営に関する大項目として、「競争戦略」「財務」「経理」「組織」など10の分野をピックアップしました。さらに10の分野のそれぞれに対して10の中項目を立てました。そして、中項目のそれぞれに対して、さらに100の要素を入れることにしました。
これで100×100×100=10,000です。実際に取り組んでみるとわかるのですが、各項目に対して、重要な要素を10出すというのはそれほど難しくありません。このように階層立てて物事を捉えることで漏れ無く、重複なく思考することができるようになるため、この考え方は経営学の用語で「MECE(ミーシー): Mutually Exclusive, Collectively Exhaustiveの略」と呼ばれています。
後日談ですが、それからしばらく孫社長は私が作成した1万要素をプリントアウトした資料をいつも持ち歩いていました。おそらく経営のすべての要素についてチェックをして、優先順位づけや策を考えることに使っていたのでしょう。
分かりやすい資料を作成する能力は業種・業態を一切問わない
「分かりやすい資料が求められる場なんて、社長室で働いている人くらいじゃないの?」
そうお思いの方もいるかもしれません。しかし、資料作成技術は経営幹部に限った話ではなく、あらゆる業種・業態、さらには仕事以外の場面でも重要な能力になります。
なぜなら、分かりやすい資料を作ることの本質が「コミュニケーションの円滑化」にあるからです。社会と関わって暮らす以上、他の人にメッセージを伝え、何かアクションを起こしてもらう機会はどんな人にもあるでしょう。そのため、資料作成技術を学びながらコミュニケーションの方法を改善していくことが立場を問わず重要になってきます。
私は異なる業種を経験した際に、資料作成技術の威力を痛感しました。ソフトバンクで学んだ後、インターネット広告代理店アドウェイズの経営に携わり、ソフトバンク流の資料作成術を末端にまで浸透させた結果、低迷していた業績が回復し、赤字を脱却。株価はみるみるうちに10倍に膨れ上がりました。
また、私が理事を務めている日本年金機構の年金相談窓口の待ち時間やコールセンターの応答率も大幅に改善しています。これらは一見、資料作成には関係のないことに見えますが、問題点を明らかにする資料を作成することで改善点が伝達でき、問題解決に成果を発揮しました。
資料の種類ごとに最適化のポイントが異なる
どんな資料を作成しても肝心のポイントには変わりはありません。曖昧な表現を排して、定義をはっきりとさせることが重要です。しかし、資料ごとに気をつけておくべき「最適化ポイント」は異なります。そこで著書「世界のトップを10秒で納得させる資料の法則」では10の資料媒体を例に挙げ、それぞれで意識するべきポイントをご紹介しています。
例えば時系列変化のあるグラフでは、適切な群を設定することが最も大切です。
図表2-2では4月から7月の売り上げを、クライアント企業別に並べています。
棒グラフの高さが変わっていないので、毎月一定の売上を上げているという印象を受けるのではないでしょうか。しかし、クライアント企業別に分けたことで問題の本質を覆い隠してしまっています。
本質を明らかにするために、クライアント企業別ではなく、売上の種類で分けてみましょう。「一時的な売上」と「継続的な売上」に区分したのが図表2-3になります。
この形式で表すと、「継続的な売上が大幅に減少し、一時的な売上が増加して、トータルで見たらなんとかキープできている状況」であることが分かります。おそらくは営業成績を下げないために営業チームが一時的な受注を多く集め、カバーしようと動いてくれているのではないかなどの予測ができます。このように、業績報告書では適切なカテゴリ分けが問題の本質を照らすまたは覆い隠す要因になることを心に留めておく必要があります。
一方で、プレゼンテーション資料では「一目見ただけで重要なポイントがつかめる」ことが求められます。そのため、同じ棒グラフでも図表9-2のように吹き出しを入れ、中でも「2兆円」という数字を目立たせるようにします。これは2兆1千億という数字そのものに意味があるのではなく、全体に増加傾向があり、しかも2兆という大台を突破したという”イメージ”に訴える表現を選択する必要があるからです。
ここではすべての資料の形式の最適化ポイントは述べませんが、売上報告書とプレゼン資料で見せ方に違いがあるように、意識するだけでグッと質の上がるポイントが複数あることを覚えておくと良いでしょう。
分厚い資料は必ずしも磨き抜かれた資料ではない
詳細なデータを集め、報告書の束を作ると仕事をしたような気になってしまいます。しかし、大量の情報はそのままではいい資料とは言えません。資料作りのポイントは情報を整理し、重要な箇所を分かりやすく伝えることだからです。
私もかつては「頼まれたから資料を作る」という小さな意識で仕事をしていましたが、ソフトバンク流の資料作成術を身につけてからは、いつも視点を上に置いています。会社に貢献し、出世したいと考えるのなら、上の人が必要とする資料を作り、問題解決に役立ててもらう必要があります。繰り返しになりますが、問題点を浮き彫りにし、仮説検証に使える理想的な資料作りを心がけましょう。
まとめ
資料は出来事をそのまま書き連ねただけのものではありません。誰かにアクションを起こしてもらうためのコミュニケーションツールです。そのため、業種・業態を問わずその能力は必要とされますし、それができるだけで大きな成果に繋がります。
私、三木雄信が運営しているコーチング英会話トライズでは、卒業する受講生様による英語でのプレゼンが行われているセンターもあります。その際に今回紹介した資料作成のコツを使われている方もいらっしゃるようで嬉しい限りです。トライズでは英語を話せるようになるのはもちろんですが、今回紹介した資料作成のコツやどうやって忙しいビジネスマンが1日3時間も英会話学習の時間を作るのかという時間術も身に付きます。興味のある方はぜひトライズ公式サイトを御覧ください。
本記事では資料作成の前提となる考え方をご紹介しました。より詳しい内容は著書【 世界のトップを10秒で納得させる資料の法則 】にまとめてあるので、そちらも合わせてお楽しみください。私はソフトバンク流の資料作成術をマスターすることでコーチング英会話トライズ(TORAIZ)の経営も短期間で軌道に乗せることができ、それ以外の仕事でも数え切れないほどの成果を出すことに成功しました。
ぜひ皆さんも資料作成術を身につけ、人生に活用してみてください。