「論点が伝わりにくくてコミュニケーションがうまくとれない」
「管理職になってスタッフ間の調整に苦労している」
それらの悩みを解決する糸口がプレゼン技術にあります。プレゼンといっても多くの人の前に立ち、スライドを見せながら話すものばかりではありません。日常の些細なコミュニケーションの中で、伝えたいことをスパッと伝える技術を身につけるだけで、人間関係は劇的に改善されます。
私、三木雄信はソフトバンクの孫正義社長の秘書として働く中で、効率的なコミュニケーション術を身につけることができました。現在ではそのノウハウを活用して、自身の事業であるコーチング英会話トライズの経営を成功させています。
優れたアウトプットを出すためには、英語学習者もビジネスパーソンもコミュニケーションの考え方を身につける必要があります。そこで本記事では「人に信頼されるようになる瞬速プレゼンの技術」に焦点を当てて解説していきます。
目次
孫社長の口グセ「10秒以上考えるな!」の本当の意味
仕事を早く進められるようになるためには、コミュニケーションを効率化する必要があることを前回の記事でご紹介しました。
さらに一歩進めて、チームでの連携について考えてみましょう。今の時代、自分一人でできる仕事などありません。成果を出すには、誰かの協力やチームでの連携が必要です。つまり、仕事を早くするには、「短時間でいかに多くの人を動かせるか」を考えなければなりません。
孫社長は答えに詰まる社員を目にすると、「10秒以上考えるな!」とよく言っていました。その心は、「考えるのをやめろ」という意味ではなく、「自分の手持ちの材料で結論が出ない場合には、人に聞いたり、チームで議論せよ」ということです。
よって、いい仕事をしようと思えば、必然的にコミュニケーションの量がどんどん増えます。だからこそ、同時にコミュニケーションの速度を上げなければ、結果を出すまでの時間が遅くなる一方です。
特に中間管理職やリーダークラスにとって、コミュニケーションが遅いことは死活問題になります。上司・同僚・部下・取引先とコミュニケーションをするべき相手が増えるので、その一つ一つに時間をかけすぎていては、いくら残業をしても追いつくはずがありません。的確なコミュニケーションにより、やりとりの往復回数を減らすだけでも業務効率に大きな影響を与えます。
共通言語を使ってコミュニケーションを高速化する
孫社長の秘書を経て、社長室長になった私は、いくつもの大型案件でマネージャーを任されました。中でもADSL事業「Yahoo!BB」のプロジェクトは、私が社長室を離れて事業そのものに専念した、思い入れの深い案件です。ADSL事業は、孫社長がソフトバンクの命運をかけて勝負に打って出た大型事業だっただけに、プロジェクトに関わった人の数も膨大でした。コールセンターで働く派遣社員やアルバイト、協力会社である代理店のスタッフなども含めれば、私の部下は1万人近くいたことになります。これだけ多くの人間を動かし、孫社長が目指すゴールを達成できたのは、紛れもなく「瞬速プレゼン」のおかげです。
プロジェクトマネージャーの役割とは?
そもそもプロジェクトマネージャーの役割は何かと言えば「コミュニケーションの調整役」に尽きます。現在では分業化が進み、ひとつの仕事に様々な部門やグループが関わるようになっています。つまり、昔に比べて「横のコミュニケーション」が増えているのです。
所属する組織が違えば、使う言葉の定義が違います。さらには一方にしか通じない社内用語を使って業務を進めている場合もあり、ADSL事業のように複数の事業者と協力して行うプロジェクトではコミュニケーションに摩擦が生じます。実際に、「Yahoo!BB」の件ではエコシステムズときんでんの2社から出向中のスタッフが担当したのですが、ネットワーク図の記号表記をする際に、別の記号や用語を使っていたため、お互いの図面が何を表すのか分からないという事態が起こっていました。そこで、私は両社のスタッフを一堂に集め、言葉の定義付けと記号の共通化を行いました。そこからはスタッフ同士のコミュニケーションが一気にスピードアップし、ネットワーク図の作成が円滑に進みました。
このように問題点を把握したら瞬時にコミュニケーションをとり、その円滑化に勤めるのがプロジェクトマネージャーの役割の一つです。
瞬速プレゼンで上司や同僚からの信頼を勝ち取った方法
私が25歳で孫社長の秘書になった時、最初に告げられたのはこんな言葉でした。
「社長の時間を最大限、効率的に使うのがお前の仕事だ。社長の生産性は秘書が決めるんだぞ!」
その真剣な表情と迫力に気圧されながらも、新米秘書の私は「孫社長の時間は1秒も無駄にしないぞ」と心に誓いました。
なぜ孫社長は、そこまで時間にこだわるのでしょうか?それは、会社経営において最も貴重なリソースが「社長の時間」だからです。人やお金は外から調達しようと思えばいくらでもできます。しかし、人間に与えられた時間は、誰もが平等に1日24時間しかありません。投資ファンド設立のために10兆円を調達できる孫社長も、さすがに時間だけはどこからかもらってくるわけにはいかないのです。
孫社長の時間を有効に使おうと予定を組んでも、それを管理するのは容易ではありません。孫社長は仕事の優先順位を自分で決めてしまうので、少しでも重要度が低いと判断された仕事は後回しにされます。会議に熱が入ればミーティングは後ろ倒しになり、挙句の果てには「後の予定は全部飛ばせ」と言われることもしょっちゅうでした。
そう言われても後ろには次のスケジュールが入っており、
「今日中に社長の稟議をもらわないと、取引先との契約が期限切れになるんだけど」
と困り果てた幹部たちが、社長室の前で2時間も3時間も待たされることが少なくありませんでした。これでは会社の仕事が回らなくなります。結局どうしたかといえば、秘書である私がこうした案件を肩代わりすることになりました。
「孫社長の手が空くタイミングを見計らって、私が稟議をもらっておきます」
そういって、すべての書類にサインやハンコをもらう役目を引き受けたのです。
孫社長が休憩に入るタイミングを見計らって説明したり、同行する予定もないのに孫社長と一緒に車に乗り込み、書類にサインをもらっていました。このような行動を通して、孫社長も「三木は私の時間を有効に使ってくれる」と信頼してもらえるようになりました。さらには稟議を通したい幹部達からも「三木に任せれば、すぐに社長の了承を取ってくれる」と思ってもらえるようになりました。
周囲の人の時間効率を最大化するために、瞬速プレゼンを活用し、「あの人と一緒に仕事をしたい」と思ってもらえるようになることが、できるビジネスパーソンの条件です。
YESを引き出すための4つのポイント
瞬速プレゼンは、いわば「居合斬りのコミュニケーション」です。だらだらと時間をかけず、瞬時に決着をつけます。少なくとも、報告や説明に5分や10分も時間をかける余裕はありません。最初の10秒で相手の心を掴まなければ、最後まで話は聞いてもらえないのです。私が孫社長のもとでYESを引き出すために蓄積したノウハウには、4つのポイントがあります。
相手が断れない状況を事前に作る
承認を得たい事柄について、判断材料となる情報を事前に準備することが重要です。その際にはキャッチーな数字を盛り込むことで権威性を獲得することもできます。ソフトバンクが銀行からの融資を引き出す際には「ADSLのナンバーワン企業」というコピーを活用し、さまざまな交渉を成功させてきました。
相手が欲しい情報を伝える
相手がどんな情報を必要とするかを、階層に分けて考えることも大切です。前回の記事で紹介した、DIKW理論などを活用して、その人の立場にあった情報を伝えることで納得感を持ってもらうことができます。
タイミングを計る
コミュニケーションにかける時間そのものを短縮することも大事ですが、同時に「どのタイミングでコミュニケーションするか」も重要になってきます。忙しい上司を捕まえる時だけでなく、部下や他部署に仕事を振る時もタイミングを見計らうことで、工程をスムーズに進めてもらうことができます。
伝える順番に気をつける
ビジネスの世界ではよく言われることですが、結論から話すことを徹底するのが良いでしょう。さらには理由を3つ続け、次のアクションを伝えることで意思疎通をスムーズに行うことができます。場面によって応用は必要ですが、基本的には「結論」→「理由」→「次のアクション」と続けるのが良いとされています。
まとめ
コミュニケーションを円滑にすることで、仕事の効率を上げることができます。さらには上司や部下からの信頼を勝ち取ることができるようになり、仕事上のつながりも有意義なものになります。
さらに、瞬速プレゼンを成功させるための4つのポイントを紹介しました。事前準備、情報の粒度、タイミング、話す順番をよく考えることで、伝わりやすさはグッと高まります。
私はこれらの方法を活用することにより、コーチング英会話トライズ(TORAIZ)の経営を軌道に乗せることができました。瞬速プレゼンについてのより詳しい内容は、著書「孫社長のYESを10秒で連発した瞬速プレゼン」にまとめてあります。合わせてご覧ください。