「限られた時間で自分をアピールしたい」
「上司からスムーズに承認をもらえるようになりたい」
これらは全て短時間でのプレゼン、いわば「瞬速プレゼン」をマスターすることで解決します。瞬速プレゼンの技術は欧米のビシネス界ではエレベーターピッチとも呼ばれ、古くから重要視されてきました。その語源は「一般の社員がエレベーターに乗り込んだ時、たまたま経営者が乗っており、数十秒のやりとりで自分を印象付けなければいけない状況」から来ていると言われています。
私、三木雄信は25歳から数年間、ソフトバンクの孫正義社長の秘書を務め、常に限られた時間で要件を伝える必要に迫られていました。その中で、どうすれば忙しい上司からYESを引き出せるかを体系化し、ソフトバンクグループの経営幹部から依頼された書類を大量に処理することで、会社の交通整理を図ってきました。
この技術を活用して、現在ではコーチング英会話「トライズ」の経営を成功させています。さらに、より多くのビジネスパーソンにも瞬速プレゼンのスキルを活用してもらうために、著書「孫社長のYESを10秒で連発した瞬速プレゼン」を上梓しました。
本記事ではその中から、「瞬速プレゼンがビジネスシーン全体において大きな影響をもたらす理由」と「すぐに使える、YESを引き出すためのコツ」を解説します。
なぜ瞬速プレゼンが重要なのか?
超多忙な上司を持った私にとって、「どのタイミングで社長を捕まえ、いかにして一発でOKをもらうか」が仕事における最大のテーマになりました。
私の元には、社内から「この書類に社長のサインが欲しい」という依頼がひっきりなしに押し寄せました。「孫社長の手が空いたら相談しよう」などと悠長なことを言っていたら、永遠に稟議は通りません。当然ながら、すべての担当者を社長に会わせることもできないので、優先順位をつけた上でスケジュールのあきを見て、その場で「イエス」の返事をもらわなくてはいけません。つまり、瞬速プレゼンは超多忙な上司の時間効率を最大化するためのコミュニケーションツールとして重要なのです。
一方で、瞬速プレゼンは上司をもつビジネスパーソンだけに求められるスキルではありません。
- 家庭内でお願い事をするとき
- 重要な決断を応援してもらいたいとき
- とっさのチャンスをものにしたいとき
いずれの場合にも、自分の要望を説得力のある理由とともに伝え、アクションを起こしてもらうことを目的としています。
したがって、コミュニケーションのあるところにはプレゼンの機会があるので、短期間に適切に説明することで必然的にチャンスを掴める回数が増えるのです。
さらには瞬速プレゼンの癖をつけることで、論理的に考える習慣が身につきます。すると家庭でも仕事でも物事の本質が見抜けるようになり、効率よく成果を出すことができるようになります。
Yes・Noは事前準備で9割決まる
ホワイトカラーの仕事の9割は、コミュニケーションとそのための準備と言われています。
あなたの仕事でも、会議や打ち合わせ、商談、交渉などのコミュニケーションか、それに必要なコミュニケーションなどの割合は無視できないものではないでしょうか。さらに準備の時間も合わせると大変な割合を占めると思います。仕事のほとんどがコミュニケーションであれば、その速度を上げることで仕事は効率化します。
孫社長も端的なコミュニケーションにこだわりのある経営者の一人でした。
- 「結論から言え」
- 「なぜすぐに答えられないんだ」
ソフトバンクの会議室では、こんな光景が度々見られました。
このような叱責を受けるケースをつぶさに分析してみると、「準備不足」のケースがほとんどでした。社長にアクションを起こしてもらうためのプレゼンであるにも関わらず、意思決定に必要な情報が不足しているというのは致命的です。
承認が得られるかどうかは、本番でいい発表をするかどうかで決まるのではなく、徹底したリサーチと、情報をつなぎ合わせる論理性で決まることを忘れてはいけません。
情報のコントロールで仕事を制する
会社には役職があり、一般の社員、管理職、社長と職位が上がるにつれて、情報の階層も上がることを知っていましたか?
それが「DIKWモデル」です。DIKWモデルはもともと情報工学の概念で、情報の種類を
- Data (データ)
- Information (情報)
- Knowledge (知識)
- Wisdom (知恵)
の4つに分けたものです。
当然何も加工していない「データ」は膨大にあり、それを整理した「情報」は少なくなります。情報の中でも示唆が得られる部分だけが「知識」になり、それを応用可能な形に変えた「知恵」はほんのわずか一握りになります。
極論を言えば、経営者は細かな元データが知りたいのではなく、それらから得られる大きな結論や抽象化した知恵が欲しいのです。
この概念が頭に入っていると、目上の人に情報を伝える時には、どのような形にまで分析を進めておけば良いかが理解でき、コミュニケーションを円滑にできる可能性が高まります。
時間の切れ目を狙い、本題に入る
ここまでで瞬速プレゼンの技術のうち、「伝えるべき内容」について見てきました。次に、視点を変えて「いつ伝えるべきか」について考えてみましょう。
ベストタイミングの一つは「時間の切れ目」です。出社した時や昼休みに入る時、一日の業務終わりなど、相手の仕事が一区切りするタイミングで声をかけるのが基本中の基本です。
私が孫社長をつかまえていたのも、「会議と会議の合間」とか「トイレ休憩に立った時」のようなスキマ時間でした。ここでは一切の無駄を排して「○○の件ですが」といきなり本題に入ってください。同時に、用意しておいた資料をさっと出します。そうすることで最後まで話を聞いてもらうことができ、結果としてはイエスを引き出す可能性が高くなります。
依頼する際には「優先順位付け」も欠かすことはできません。複数の要件がある際にはまとまった時間が必要になるので、せっかくスキマ時間に声をかけても「すぐには決められないから後にして」となりかねません。そこで案件を重要度と緊急度の2軸で分け、次の4つのカテゴリのどこに属するかを考える必要があります。
- 「緊急」かつ「重要」
- 「緊急」だが「重要ではない」
- 「緊急ではない」が「重要」
- 「緊急でない」かつ「重要でない」
これらの優先順位はもうお分かりですね。1から4にかけて優先順位が低くなります。後回しにできない案件から処理してもらうことで重要な業務の進行がスムーズになり、結果的には会社全体のメリットになります。
まとめ
本記事では私が孫社長の秘書をやっていた時の経験から瞬速プレゼンがなぜ重要であるか、そしてそれをどう成功させるかの大枠を解説しました。コミュニケーションの質を上げるためには事前の準備が大切で、そこには根拠や理論が欠かせません。さらに話を切り出すタイミングや、案件の優先順位付けを明確に行うことで、イエスを引き出せるようになっていきます。
実際に私もソフトバンク流のコミュニケーション術を使って業務を効率化することで、新たな事業である「コーチング英会話トライズ(TORAIZ)」の経営を軌道に乗せることができました。
瞬速プレゼンのさらなるコツについては著書「孫社長のYESを10秒で連発した瞬速プレゼン」で紹介されています。ぜひ合わせてご覧ください。