「報告書がいつも無味乾燥な内容になってしまう」
「部下の報告書を読んでも課題発見につながらないが、どう指導すればいいか分からない」
多くの方がこれらの悩みを抱えています。
私、三木雄信は25歳の時にソフトバンク孫社長の元で働き始め、ありとあらゆる資料の作成に携わってきました。しかし、初めから分かりやすい資料が作れた訳ではありません。働き始めたばかりの頃は時間をかけて作った資料でも「内容が分からない」と即座に切り捨てられることもありました。様々な資料を読み込む中で「分かりやすい資料の共通点」を見つけ、徐々にその方法論を打ち立てることができました。
現在ではソフトバンク流の資料作成術を活用して、コーチング英会話トライズ(TORAIZ)の経営を発展させることができています。この手法を多くの人に役立てていただきたいと思い、2015年に著書「世界のトップを10秒で納得させる資料の法則」を上梓しました。
本記事ではその中から「3種類の報告書を格段に分かりやすくするポイント」に焦点を当てて解説していきます。
業務処理報告書
群管理の重要性については以前の記事でも解説しましたが、ここで改めて事例を取り上げます。英会話学習塾の申し込み状況の推移を見てみましょう。このグラフでは1から4週目の各地点での累積の件数が表されています。グラフを見る限りでは「問い合わせ」「モデルレッスン」「申し込み」「入金」が徐々に増加しているような印象を受けます。
しかし、このグラフには「週ごとの実態が把握できない」という大きな欠陥があります。そこで課題の発見のために、累積ではなく週別の件数に変えたものも見てみましょう。
週別のグラフから、どこに問題があるか分かりましたか?
最も大きな問題は、「3週目から5週目にかけて高い問い合わせ件数があるにも関わらず、モデルレッスンが増えていない」ということでしょう。つまり、モデルレッスンを提供できるキャパシティーが小さいために、興味を持って問い合わせしてくれたお客さんを逃してしまっているのです。
実際にこの学習塾では本部からネイティブ講師を派遣してもらい、モデルレッスンの枠を増やすという施策を取りました。そうすることで、問い合わせをしてきた人の意思や興味を無駄にすることなく、先方の希望に応じて1週間以内にモデルレッスンを設定した結果、レッスン後に塾への申し込み手続きを取る人が増え、今ではこの塾の入金は順調に増えています。売上を阻んでいたボトルネックを解消したことで、新規獲得客の数は二倍弱にまで増えました。
もちろん累積で見た方が課題発見に適した場合もあります。大切なのは「適切な時系列で」、「適切な粒度で」分析をすることです。経験が必要な部分もありますが、もし手法に困った場合には同業者の報告書などを見て、より適した表現方法はないだろうかと探してみることも勉強になるでしょう。
売上報告書
次に、売上報告書の実例を見ていきましょう。図表2-1は問題の原因が見えないダメな売上報告書を示しています。便宜上、表中の予算は「目標売上」、実績は「実際の売上」と考えると理解しやすくなります。
この表からわかることは「4月から7月にかけて実績が伸び悩み、予算に追いつかなくなっている」という全体的なトレンドでしょう。一方で、その原因や、会社ごとの数値の変化は把握しにくいという欠点を抱えています。
そこでまずは会社ごとの売上を視覚的に捉えるために、累積棒グラフを導入してみましょう。図表2-2では累積棒グラフの横に予算を加えることで、予算に到達したかどうかがパッとわかるようになっています。
すると、
- 6, 7月はD社からの売上が大幅に縮小している
- A社とE社からの売上は増加傾向にある
- C社からの売上は5月に大きく伸び、その後継続している
というより細かな傾向がつかめるようになります。
これだけでも
- D社へのフォローを手厚くする
- A社とE社は成長傾向にあるので、より多くのサービスをセットにして単価を上げる
といったリソースの再分配の判断ができるようになります。
今度は売上の種別で分けてみましょう。図表2-3は売上を「一時的売上」と「継続的売上」に分けて表しています。
このグラフから浮き彫りになる問題点は以前の記事でも取り上げましたがおさらいすると、「月ごとの総額はほぼ横ばいに見えるが、継続的売上が減少し、一時的売上が急増している」という点です。問題点がつかめると、どのサービスを販売しなければいけないかが判断でき、経営リスクを回避することにつながります。
今回の売上報告書の例のように、何を伝えたいかでグラフの構成は大きく変わります。このことを理解していれば適切なカテゴリ分けによって問題に意識を向けることも、問題の本質を意図的に覆い隠すこともできてしまいます。報告書作成には大きな責任が伴うことをよく理解し、自分が経営者の立場になったつもりで資料作りを行うという姿勢が求められます。
要因分析レポート
最後に取り上げる事例はある保険会社のコールセンターに寄せられる問い合わせが、どのような原因によって生じているかを調べた件についてです。この保険会社では年に3回顧客にレターを発送しており、レターの中身や送付件数は3回とも異なっています。レターを送ると反響の入電があることは予想されますが、どのレターに改善の余地があるかを入電件数から推測することはできるのでしょうか?
まず提出されたのが、月ごとの入電件数をプロットした折れ線グラフでした。
3つのピークがあるのでそのタイミングでレターが届いたことは分かりますが、これを見るだけではどのレターを改善すべきかまでは議論ができません。そこで作成を指示したのが、図表3-2のように積み上げ面グラフを作ることです。
まず、「ベースコール」というのは日常的にかかってくる電話を指します。何かアクションを起こさなくてもかかってくる電話をベースコールに分類します。土日に保険内容を見直す人が増えるためか、休み明けの月曜の朝はコール数が多くなったり、夜の10時から11時の時間帯はコール数が増えるなど、曜日や時間によって多少のムラはあるものの、1年を通してならせばほぼ安定した数で推移します。さらに、このベースコールに分類されない問い合わせを「レター関連」として別の色で塗りつぶすことで、件数の大小を面積で視覚化することできるようになります。
次に考えるべき数字は「各レターを何件ずつ発送していたか」です。レーターA, B, Cを100万件, 200万件, 100万件送っていたことが分かれば、入電件数を送付数で割って「発生率(問い合わせにつながる割合)」を導くことができます。そうすることでレターCの発生率が著しく高く、「レターCをもっと分かりやすい内容に改良しなければならない」と根拠を持って説明できるようになります。
このように数値に基づいて施策の良し悪しを議論することができるようになると、上司を動かせるようになります。実際に私もYahoo!BBのコールセンターの責任者をしていた時期があるのですが、当初はユーザーからクレームが殺到し、そのあまりの凄まじさにオペレーターはメンタルに大きなダメージを受けていました。しかし、問題がコールセンターにあるのではなく、本当の理由は会社のもっと内部にあることを強く感じていました。そこで私は責任者としてデータを分析し、入電につながる最大の問題を解決するよう訴えました。最初はいくつもある問題の中の1つだけを改善してもらい、コール発生率を5%から4%に減らすことができました。小さな変化のように感じますが、たった1%入電を減らすだけで毎月4000万円ものコスト削減につながったので、小さな改善の効果を侮ることはできません。
まとめ
報告書は単なる数字の羅列ではなく、問題点を浮き彫りにするための資料です。そのためにはふさわしいカテゴリ分けや計算処理を行う必要があります。資料の効果を最大化するために、常に問題解決のための資料作りと心得ておきましょう。
私はソフトバンク流の資料作成術をマスターすることで、コーチング英会話トライズの経営を短期間に軌道に乗せることができました。その結果として2020年5月現在の総受講者数は約4500人にまで達し大変嬉しい限りです。トライズでは一人でも多くの人に英語を話せるようになってほしいという気持ちで社員一同取り組んでおります。受講生いただく方の中には他の英会話スクールでは英語が話せるようにならなかったからトライズに申し込んだという方が大勢います。そんな英会話教室難民の皆様を救いたいと日々取り組んでおります。
今回紹介した資料作成方法より詳しい内容を著書「世界のトップを10秒で納得させる資料の法則」で公開していますので、そちらも合わせてご覧ください。