「作った資料が上司の説得に役に立たない」
「上司がリスクを取らずに企画が通らない」
このような不満をかけるビジネスパーソンは少なくありません。
私、三木雄信はソフトバンクの孫正義社長の右腕として数々のプレゼンを見てきました。その中で、「人を説得できるプレゼン」には共通点があることを発見しました。そのスキルを活用して、現在ではコーチング英会話トライズの経営を成功させています。
ソフトバンク流の瞬速プレゼンのノウハウをより多くの人にも活用していただくために、「孫社長のYESを10秒で連発した瞬速プレゼン」を上梓しました。
その中から、本記事では「単なるデータを経営判断の材料であるウィズダム(知恵)に変える技術」に焦点を当てて解説します。
一発OKを連発する「情報処理」の技術
上司を説得するためには、その役職にあった情報提供が重要であることを以前の記事で説明しました。ここでは具体的に、「どう情報の粒度を上げていくか」について解説します。
具体例として、子供向けの教育ビジネスを考えてみましょう。
Aさんの会社は主にスマートフォンのアプリを活用した事業を進めてきましたが、社長が「そろそろ実際に店舗を出店して、リアルビジネスに本格参入したい」と方針を打ち出しました。しかも社長は、全国展開をゴールに設定します。その実現に向け、Aさんは東京・お茶の水での試験運用の担当者に選ばれました。では、どんな事業計画を提案すれば、社長から了承を得られるでしょうか。
データからインフォメーションへ
まず、データを入手するために、自社アプリの購入履歴から、「年齢」「居住地」「購入開始時期」といった購入者の属性を洗い出しました。ただし、これらのデータは、単に「自社のアプリを買ってくれたのはこんな人達です」と言う過去の事実を確認する数字であり、それだけでは意味がありません。では、このデータをインフォメーションに加工してみましょう。
いくら教育アプリを積極的に利用してくれているユーザーでも、教室から遠いところに住んでいれば通うことができません。そこで、居住地のデータを分析し、都道府県別に分けて円グラフを作成したものが下図になります。
情報を円グラフで表現したことにより、東京・愛知・大阪近県の利用者が70%弱を占めることが分かりました。つまり、これらの県には既存のユーザーがいるので、教室を開いたときにすぐに来てくれる可能性があるが、それ以外のエリアであれば知名度を上げる活動が必要になることが分かります。
インフォメーションからナレッジへ
次に、インフォメーションを「リアルの店舗をどう展開するか」と言うナレッジに落とし込みます。これを判断するには「どの地域に店舗を出すと、どれだけ売上が出るか」という予想を立てることが必要になります。
ここで重要なのが推定という考え方です。月間の売上、人口、固定費などを仮定し、そこから利益を予想します。
試験運用したお茶の水の店舗の月間売上が300万円で、シェアに応じて売上が変動すると仮定した場合、東京のシェアが15%なので、12%の愛知では240万円、11%の神奈川では220万円のようにそれぞれの店舗の売り上げが予想できます。これを棒グラフにしたものが次の図になります。
この例は非常にラフなシュミレーションですが、このような計算を何段階にも行うことで経営判断につなげるナレッジを積み上げていきます。
ナレッジからウィズダムへ
さらに説得力を持たせるには、「なぜ当社がその事業をすべきか?」に根拠を示さなければなりません。事業をするべき理由はまさしく「利益が出るから」です。そこで、「利益が出る・出ない」の損益分岐点がどこにあるのかを考えてみましょう。
お茶の水の試験店舗では賃料・光熱費・人件費に毎月100万円かかったとします。この固定費が全国で大きく変わらないと仮定した場合、少なくとも100万円以上の売上がないと利益が出ないわけです。すると、下図のように、東京・愛知・神奈川。埼玉・千葉・大阪では利益が出るとわかります。
より深い提案をするためには、利益が出ないと予想された他の地域の固定費を下げ、利益を生み出せるようにする施策提案までできると完璧でしょう。
上司が知りたい「数字のツボ」を押さえる
経営者や上司が意思決定をする際に知りたい数字はだいたい決まっています。例えば、「売上 = 顧客数 × 顧客単価」で考えるので、顧客数や、顧客単価が資料に盛り込まれていると、判断の材料になります。あなたの会社でも、ゴール達成のために様々なKPIが設定されているはずです。
ソフトバンクでは次のような指標が数字のツボになっていました。
一人当たりの顧客獲得コスト
これは文字通り、一人の顧客を獲得するまでにいくらの広告料が必要かという指標です。ソフトバンクではあるサービスを開始したとき、一定の顧客数に達するまではコストは度外視ですが、ある時点になった時からは「一人当たりの顧客獲得コスト」を厳しく管理します。最終的にはその事業で利益が出るところまで、数値を下げることを目指します。
ライフタイムバリュー
ライフタイムバリューは顧客1人あたりが、会員のうちにいくらの利益をもたらしてくれるかという指標です。顧客単価が高くても契約期間が短ければ、ライフタイムバリューは低くなります。反対に、毎月の支払い額が小さいサービスでも、何年にも渡って使用してもらうことができればライフタイムバリューは長くなります。
残存率/離脱率
残存率や離脱率は、一定期間ののちに、契約しているもしくは解約した会員の割合を示す指標です。これらが分かるとライフタイムバリューが計算できるようになります。
歩留まり
歩留まりは元々は製造業における用語で、正常に生産されたものの割合を表します。つまり、不良品が多いプロセスでは歩留まりが低くなります。これはビジネスのプロセス分析にも応用ができます。A→B→C→Dというプロセスを経る場合、次のステップに進んだ顧客数などを歩留まりの考え方で数値化することが可能です。
将来キャッシュフロー
将来キャッシュフローとは、将来発生する現金の収支のことです。要するに、「うちの会社はあと何年で、これだけキャッシュを稼ぎます」という数字であり、会社の経営計画や財務予算などから見積もります。
EBITDA
EBITDAは将来キャッシュフローと同様に、企業価値を判断する指標の一つであり、営業利益に減価償却費を加えた値になります。減価償却費や金利を差し引く前の数字なので、借入金が多い会社と自己資本の多い会社を同列に比較することができます。この考え方の前提には、借金ができるということは、金融機関から価値を認めてもらっているという見方が反映されています。
決断できない上司の背中を押す方法
DIKWモデルを駆使して、高い階層の視点で提案し、数字のツボを押さえたにも関わらず、上司が即断即決できないこともあります。その場合には、2つの対処法があります。
1, できるだけノーリスクの提案を考えること
1つ目には「できるだけノーリスクの提案を考えること」です。先ほどの教育系アプリ会社の全国展開の例で例えると、「固定費を抑えれば全国展開できるというが、本当にコストを下げられるのか?」と最後の最後で決断を迷うかもしれません。その時、あなたが「実はすでにいくつかの学習塾を当たって、教室の一部を使わせてもらえる可能性があります。その場合、毎月のコストを50%抑えることが可能です」と伝えたらどうでしょうか。このように、リスクを下げることで、最後の一押しにつなげる提案が可能です。
2, あらかじめ失敗を織り込んだ提案をすること
2つ目には「あらかじめ失敗を織り込んだ提案をすること」です。自分の提案にあらかじめ失敗を織り込んでおくことも、上司を動かす方法として非常に効果的です。「これをやると短期的には失敗する可能性があります。しかし、その場合にはAという方法でリカバリーするので、最終的には目標を達成できます」と示すことで、より現実味のある提案に映ります。
このように、リスクコントロールをして上げることで、その提案を採用すべき理由をさらに上乗せすることができます。
まとめ
本記事では上の立場の人を説得するために、実際にどのような情報の見せ方をすれば良いかを解説しました。常に「経営判断に役立つか?」という視点を持ってプレゼンを行うことで、より実用的な内容に変わっていくでしょう。さらには、重要な指標を織り込み、リスクコントロールにも万全の備えをすることで、主張の説得力が格段に増します。
私もこれらのノウハウを活用して、「コーチング英会話トライズ」の経営を成功させています。瞬速プレゼンのより具体的な内容については著書「孫社長のYESを10秒で連発した瞬速プレゼン」に掲載してあります。合わせて参考にしてください。