【プレゼン術】孫正義社長がトランプ大統領を説き伏せた瞬速プレゼン術

ビジネス術

上司を説得するにはどんな能力が必要でしょうか? 

  • 日頃のコミュニケーション 
  • 卓越した話術 
  • 周到な根回し 

など、考えられることは沢山あります。 

しかし、基本はもっとシンプルです。私がソフトバンクの孫正義社長の秘書を経験して発見した、説得のもっとも大事なポイントは「相手の立場に立つ」ことです。孫社長はこれまで経済界、政界の多くの人々との交渉を成功させてきましたが、それらを支えたのは相手の欲しいものを見出して、それを提供するというプレゼン力でした。 

私、三木雄信は孫社長から学んだ瞬速プレゼン術を活用して、コーチング英会話トライズの経営を軌道に乗せました。その過程で体系化した知識を、著書「孫社長のYESを10秒で連発した瞬速プレゼン」として上梓しました。 

本記事では、その中から、瞬速プレゼンを成功させるための基本的な考え方と、準備の重要性について解説します。 

孫社長がトランプ大統領に一番に会えた理由 

2016年12月、あるニュースが世間を騒がせました。アメリカ大統領選に勝利したばかりのドナルド・トランプ氏と、ソフトバンク孫社長がニューヨークで電撃会談したのです。日本の大統領との会談より先に、一経営者と会うという出来事は社会に大きな衝撃を与えました。 

なぜ孫社長は、面識のないトランプ氏にいち早く会うことができたのでしょうか? 

それは相手がYESと言うしかない提案を用意したからです。 

会談終了後、トランプ氏と並んで報道陣のカメラの前に現れた孫社長の手には、こう書かれた一枚の資料がありました。 

「今後5年間でアメリカに500億ドルを投資し、5万人の雇用を創出する」 

この提案をプレゼンするために、孫社長はトランプ氏にアポを取ったのです。 

この提案をトランプ氏が断るはずがありません。なぜならば、トランプ氏は選挙中から一貫して「アメリカの雇用を増やす」と言うメッセージを発し続けていたからです。孫社長はそれを分かった上で、相手が望む通りの提案を持っていきました。 

もちろん孫社長も、何の見返りもなく巨額の投資をするわけではありません。ソフトバンクが買収したアメリカの携帯通信会社大手のスプリントは、同じく通信大手のTモバイルとの合併を模索しています。しかし、アメリカ当局の許可が下りず、一度は合併話がストップしました。新しい大統領が投資と引き換えに規制緩和を進めてくれれば、再びチャンスが巡ってくるはずです。孫社長はそこまで見通して、お互いにウィンウィンの提案を用意したのです。実際その後、スプリントとTモバイルが合併に向けて非公式の協議を再開したと言うニュースが伝えられています。 

相手が求めるものを知り、了承するしかない状況を作り出せば一発でYESを引き出せる。つまり、「瞬速プレゼン」が成功するかどうかは準備の段階で9割がた勝負がついているのです。 

話し下手でもYESを取り付ける技術「何を伝えるか」を考え抜く 

孫社長は決して流暢な英語が話せるわけではありません。シンプルな文法で、端的に内容を伝えます。それでも数多くの交渉で相手からYESを引き出すことができています。 

ここから分かることは、話し方やその場での駆け引きとった行動が重要なのではなく、事前に準備をして、きちんと内容を伝えることの方が交渉成立には価値があるということです。 

孫社長はいつも「交渉のやり方は『鯉取りまあしゃん』を見習え」と言っています。鯉取りまあしゃんとは、孫社長の実家に近い福岡県久留米市にかつて実在した鯉取りの名人です。鯉取りまあしゃんは鯉をとる数日前から栄養価の高い食事を取り、当日は河原で焚き火をして、自分の体を温めます。そして裸のまま河に入り、水中に横たわってじっと待ちます。すると温かな人肌を求めて鯉が寄ってくるので、それを腕で受け止めるだけで大物を捕獲できるのだそうです。ずっと前から入念に準備し、相手が自然とこちらに寄ってくるよう仕向けて、あとは難なく欲しいものを手にいれる。これはまさに孫社長のプレゼンと同じです。 

このように、相手の求めるものに合わせたアクションを取ることの重要性に加え、情報のレベルを考えることも大切です。社長を説得する場合であれば、「会社の中に様々な事業がある中で、あなたが提案する内容がどのような位置付けのものであるか」といった、社長レベルの情報を盛り込むことが重要です。現場で重要視されている数字が必ずしも、経営判断に重要な数字ではないことを理解することで、相手の理解を助けるコミュニケーションにつながります。 

優秀なビジネスマンの作る資料の中にも、「その階層の情報はまとまっているが、別の役職の人にはわかりにくいもの」が多々あります。聴衆を前にしたプレゼンでも、普段のコミュニケーションでも聴き手・読み手がどう言う人なのかを想定し、そのレベルに合わせたプレゼンをしようと心がけるだけでも評価は全く違ったものになります。 

ゴールから逆算して「いつ準備を始めるか」を考える 

コミュニケーションを成功させるには「いつ準備を始めるか」が重要です。特に、目指すゴールからやるべきことを逆算し、プレゼン当日には全ての準備が整っている必要があります。準備の段階でも他の人を説得する場面が出てくるので、そういった小さな交渉を次々に成功させていく必要があります。 

仕事を覚えたての頃は完成までのイメージが持てず、逆算が難しいこともあると思います。私も最初は締め切りギリギリに完成物を見せて「これじゃ使えない」と一蹴されることを何度も経験しました。そうならないためにも、準備を始める段階で、工程をよく理解した上司や先輩からスケジューリングに問題がないかを確認してもらい、それに沿って準備を進めるようにしましょう。こうして早めに方向性を確認しておけば、必要な情報を集める余裕もあるし、直前になって大きな手直しを指示されることもありません。 

また、前回の記事でもご紹介した通り、コミュニケーションの円滑化は信頼性に繋がります。新人に仕事を任せるのは不安だと思いながら、とりあえず任せてみるマネージャーは少なくありません。そのような時に「進め方はこのような順序で良いでしょうか?○日までにAを行い、△日までにBを終えると言うような流れで問題ないでしょうか?」と相談してくれるだけでも、マネージャーは安心でき、進捗を見守ることができるようになります。 

まとめ 

この記事では孫社長の事例をもとに、コミュニケーションを円滑に進めるためには相手の立場に立って考えることの重要性を解説しました。鯉を取るのもトランプ大統領との面会を取り付けるのも、基本は全く同じ発想に基づいています。相手の欲しいものを考え、自分の見せ方を変えていくことがコミュニケーションでは不可欠です。さらには、事前準備を円滑に進めるために、逆算思考を持ってスケジューリングするようにしましょう。 

私はソフトバンク流「瞬速プレゼン術」を活用することで、自身の事業であるコーチング英会話トライズの経営を成功させてきました。こちらでも効率的なコミュニケーションを行なって全国に教室を拡大しています。 

瞬速プレゼンに関するより詳細な内容は著書「孫社長のYESを10秒で連発した瞬速プレゼン」に収録してあります。ぜひ合わせてご覧ください。